α1-アンチトリプシン
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α1-アンチトリプシン(英: α1-antitrypsin、略称: A1AT、α1AT、A1A、AAT)は、セルピンスーパーファミリーに属するタンパク質であり、プロテアーゼインヒビターである。ヒトでは、SERPINA1遺伝子によってコードされる。古い文献においてはserum trypsin inhibitor(STI)とも呼ばれており、こうした名称は初期の研究においてトリプシンインヒビターとしての能力が顕著な特徴であったためである。実際にはトリプシンだけでなくさまざまなプロテアーゼを阻害するため、α1-プロテアーゼインヒビター(A1PI)、α1-アンチプロテアーゼ(A1AP)などと呼ばれることもある[5]。酵素阻害剤として、炎症細胞の酵素、特に好中球エラスターゼから組織を保護する。血中の参考基準値は0.9–2.3 g/Lであるが、急性炎症に伴って濃度は何倍にも上昇する[6]。
血中のA1ATの量が不十分、または機能的欠陥のあるA1ATが存在している場合(α1-アンチトリプシン欠乏症など)、好中球エラスターゼはエラスチンを過剰に分解し、その結果、肺の弾性が低下して成人では慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器合併症が引き起こされる。正常なA1ATは肝臓で産生されて体循環に加わるが、欠陥のあるA1ATは肝臓に蓄積し、成人と小児の双方で肝硬変の原因となる。
炎症細胞から放出される好中球エラスターゼへの結合に加えて、A1ATは細胞表面に局在するエラスターゼにも結合する。この場合エラスターゼは酵素としては作用せず、その代わりに細胞が移動するようシグナルを伝達する[7]。A1ATは肝臓に加えて、骨髄のリンパ球と単球、小腸のパネート細胞でも産生される[8]。
A1ATは内在性のプロテアーゼインヒビターであるが、医薬品としても利用される。医薬品としてはヒトの血液から精製されており、α1-proteinase inhibitor (human) の一般名とさまざまな商標名(Aralast NP、Glassia、Prolastin、Prolastin-C、Zemairaなど)で販売されている。組換え型のA1ATも利用可能であるが、現在では主に医学研究で利用されている。