2018年ブラジル総選挙
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ブラジルでは2018年10月7日、大統領と連邦議会下院議員、各州知事を改選する総選挙が施行された。このうち、大統領選挙は第一回投票で過半数の票を得た立候補者がいなかったため、10月28日に決選投票が実施された。
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この総選挙は、ブラジル政治が混迷を深めていた時期に重なった。中道左派の労働者党の大統領ジルマ・ルセフは前回の大統領選挙で辛くも再選されたが[1]、2016年に罷免され[2]、ブラジル民主運動党所属の副大統領ミシェル・テメルが大統領職を引き継いだ[3]。大統領としてブラジル史上最高齢となる75歳で就任したテメルは、ルセフ政権の政策を大きく転換し、公共支出凍結のため憲法を改正した[4]。テメルの支持率は7%と極端に低く、テメルの辞任を望む国民は76%に上った[5]。しかし、2017年のゼネストや2018年のトラックドライバーのストライキといった、大規模な反政府抗議行動に直面してもなお、テメルは辞任を拒み、任期満了まで大統領職にとどまった[6]。テメルは選挙運動予算法違反で起訴されていたため、今回の大統領選には立候補できなかった[7]。
保守系の大統領候補者のなかでは、リオデジャネイロ州選出の連邦下院議員で、かつての軍政時代を賞賛する極右として知られた[8][9][10][11][12][13]ジャイール・ボルソナーロが突出していた。小政党である社会自由党に合流して以降、ボルソナーロは同党のイデオロギーを社会自由主義からナショナリズムに転換させ[14][15]、大統領選挙に立候補するにあたっては高い犯罪発生率に対処するため銃の所有者を増やすこと[16]や死刑制度の復活[17]、国有企業の民営化などを掲げた[18][19]。副大統領候補にはブラジル陸軍の元将官で、保守的なアミルトン・モウランを選んだ[20]。ボルソナーロのホモフォビア的[21]、レイシズム的[22]、ミソジニスト的な信条[23]は、選挙期間中を通して非難の的となった。このほか、中道右派のブラジル社会民主党 (PSDB) からは元サンパウロ州知事のジェラルド・アルキミンが立候補したが、過去最低の得票率に終わった。
左派では、元大統領のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァが元サンパウロ市長のパウロ・フェルナンド・アダジを副大統領候補として労働者党から立候補する意向を表明し[24]、事前の世論調査でも多くの支持を集めていたが[25][26]、2017年に汚職の疑いで起訴されていたため立候補資格を得られなかった[27][28]。代わりに、当時ほとんど無名だったアダジが大統領候補となり[29][30]、副大統領候補にはリオグランデドスル州選出のブラジル共産党下院議員、マニュエラ・ダビラが収まった[31]。中道左派の民主労働党からは、シーロ・ゴメスが立候補した[32]。シーロは第一回投票で敗退したが、ボルソナーロへの反対は表明したものの、決選投票に進んだアダジを支持することはなかった[33]。
選挙期間中にはボルソナーロが遊説先のミナスジェライス州で刺されたり[34]、アダジ、ボルソナーロ両陣営の支持者が負傷するなど[35]、政治的暴力が目立った[36]。また、WhatsAppなどのメッセージアプリでフェイクニュースが拡散し、それが有権者の投票行動に影響を与えた。大統領選挙の第一回投票ではボルソナーロが得票率約46%で首位に立ち、ハダジが29%、シーロが12%でボルソナーロに続いた。決選投票ではボルソナーロがアダジを約10ポイント差で下し、大統領に当選した。その後、2019年1月1日にボルソナーロが大統領に就任した。